2018-02-14

春の訪れ

1年3か月ぶりのことだ。
隣の部屋に女性が越してきた。
女性専用マンションなので女性しか来ないのだが。

家主が空き部屋を埋めるべく、様々な策を講じているらしいことは感じていた。
階段には不動産仲介業者の看板が取り付けられ、時折半日ほど窓は開け放たれ、休みの日には内見者もいた。
しかし長い間隣人は現れなかった。
私が結界を張ったせいかもしれない。

ついこの間の土日で引っ越しは行われた。
らせん階段を上り下りし、重たい家電などが運び込まれていた。

日曜日に外に出かけるタイミングで隣人に遭遇した。
推定30代の女性。
愛想よくあいさつをされ、あぁ、どうもと名乗る。
その女性はご両親に引っ越しを手伝ってもらっていた。
なんだか不思議だ。





我が家のらせん階段は細い。
ひと1人通るので精いっぱいだ。
すれ違うにはどちらかが不自然な体勢で道を開けなくてはならない。

その細い階段をご高齢であろう父親と思われる男性が、4つほど何か同じ柄の箱を重ねて持って上ってきた。
私は彼が階段を上に登り切ってしまうまでそれを待っていて、箱を見ていたが、見たこともない箱だ。
箱のかたちは何の変哲もない箱なのだけど、それはまるでドラマの収録のためにわざわざ架空の業者の箱を作ったような違和感を放つ柄だった。
引っ越しのためにかき集めたにしてはきれいすぎたしいささか小さすぎた。
全く同じ柄の箱だったが、いったいあの箱は何だったんだろう。

引っ越し屋の段ボール箱でもなく、わかりやすい家電のようなものが入っていた箱でもない。
100均で売ってるようなものでもなく、スポーツブランドの箱でもない。





兎に角そんなわけで新しい隣人がやってきた。
この1年3か月、ずっとフロアに1人で住んでいたためか、隣の家に人の気配がするだけで目が覚める。
これには自分でも驚いた。
隣人がシャワーを浴びる音、歩く音、水を流す音、なにもかも聞こえてしまう。
別に集中して壁に耳を当てているわけではない。
前の隣人の時も同じようなものだったはずなのだが、今はなぜか強烈に耳に入ってくるのだ。

隣人の生活リズムに私が慣れるころには、季節も暖かくなっている気がする。

0 件のコメント: